ポケットモンスターSPECIAL 26〜52巻とXY1〜3巻を読んだ。覚え書き

ポケットモンスタースペシャルの26〜52巻とXY編1〜3巻を一気読みした。第6章から12章の途中までに相当するので、後半をまるまる読んだことになる。作品全体通しての感想を思いつくままだらだら書いていく。山本サトシのファンは気分が悪くなるかもしれない。自己責任で読んでください。長いです。
 
 

【なぜ今さら?】

読もうと思ったきっかけは、このような本が発売されたからである。
メチャクチャ失礼な話だが、山本サトシみたいな漫画家でも画集を出せたということに驚いた。
2chの過去スレなどを漁れば分かるのだが、真斗から山本に作画交代した時期に、山本の絵を快く思わないファンが結構いた。その頃の自分は「シナリオ担当は変わらないんだから筋の面白さは変わらないじゃん」と思ってしばらく買い続けた。しかし、第6章の主人公、エメラルドのあのクロワッサン頭と下駄のビジュアルが公開されると、何かもうすっかり愛想がつきてしまって購入するのをやめた。実際はわざと気に入られないデザインにしたらしいが…。
 
 

それから10年近くネットとリアルで日下と山本をこき下ろしまくった。ポケモンはずっとやっていたので「今度の主人公はお笑い芸人らしい」「ヒロインが社長らしい」みたいな情報はどこからか入ってくる。その度にとりあえず叩いた。もちろん読んでない。絵に描いたようなアンチだ。決まり文句は「ポケスペジョジョのパクリw」。

…で、この画集が出たことに目ん玉が飛び出るぐらい驚いた。まず第一に、ゲームのコミカライズの画集が商品として成立するというのが凄い。次に、正直山本サトシに対して絵が上手いという印象がなかった。絵が上手いというより漫画が上手いタイプの漫画家だと思っていた(他には柴田ヨクサルとか)。1コマの完成度にこだわるより全体を読んだ時のパッションにこだわるというか…。ザクザク消費する絵というか…。バトルシーンは勢いが良すぎて何がどうなってるのかさっぱり分からないコマが時々あるし、線の太さが一定で読んでいて鬱陶しい。あと、女性の胸や尻をやたら強調するのが個人的にどうも…。いや胸や尻は好きなのですポケモン漫画で見たいのはポケモンの胸や尻なので…。

 

自分がメチャクチャ馬鹿にしていた漫画家が画集を出す!松山せいじツイッターで年収を公開した時と同じ衝撃!超乳小学生がうどんを踏む漫画を描いたりNHK猪瀬直樹に冷やかされても、頑張って続ければ年収4000万円稼いで一児の父になれる…。 
 
 
 
…ちゃんと読まなければならない、と思った。
 
 
 

【体力も才能?】

読み終わってまず思ったのが、果たして真斗が作画担当でここまで続けることができたのだろうか?ということだ。
ポケモンのバトル漫画を描くというのは、他人が考えた何百種類ものモンスターで異種格闘技戦をするということで、それをシナリオ付きで月に3本描くってのは、素人目に見ても身体が持たないように思う。真斗は当初1年間で終了する予定で連載を始めたらしいから、十分続いた方なのだろうけど。
 
 
真斗の描くポケモンは自分の絵にきちんと落としこまれている(独特だけど可愛いピカチュウの描き方は度々指摘される)上に、コマひとつひとつが非常に精緻に描かれている。4巻のトキワの森などとても美しい。それでいてモブキャラなど重要でない部分は適宜省略してあるので、読者が何を注視すればいいかとても分かりやすい。
 
 
そしてバトルシーンは少年漫画誌顔負けの迫力ある構図だ。レッド対グリーン戦とかカツラ対ワタル戦とかメチャクチャかっこいい。
例えばレッド対グリーン戦の3巻192p…「あてがはずれたなレッド!炎の渦!」→「狙っていたぜ‼︎粉をとばすほどの拳圧!」→「フットワークがにぶくなったところで葉っぱカッター‼︎」への流れるような視点の移り変わりから、4本の腕の不気味な登場、そしてページをめくるとカイリキーとカビゴンの押し相撲を正面と俯瞰で撮った大ゴマが2つ並ぶ!観客の「こりゃあ凄い試合になってきたな…。」という台詞につい共感してしまう。
個人HPでは地味目の作風だと発言しているけど…本当なのだろうか?
しかし、今読み返すと、丁寧に描かれすぎているように思う。これで20年近く連載が続く様はちょっと想像できない。
 
読み返して気づいたのだけど、山本が作画担当を開始した10巻はかなり描き込みが多い。これじゃもたないと気づいたのか、それからだんだんと線が減って太くなっていく。それ以外も色々と作画の手間を省く手法を盛り込んでいる。顔アップの大ゴマの頻発。人物やポケモンをコマいっぱいに描いて背景を描かない。会話シーンを増やして吹き出しでスペースを稼ぐ(極め付けがDPの漫才シーンか)。…など。あと、太い線、大きめのコマに合わせてか、真斗の頃より写植の字も太い。
しかし単なる手抜きではなく、いや手抜きかもしれないが、線から描くのを楽しんでいる感触が伝わってくる。ストレスを感じない。観念的な言い方でアレだが、本当にそう思う。BWの女性キャラクターなんか、非常に楽しそうに描いている。シキミの胸とかフウロの尻とかカミツレの足とか。正直ポケモン漫画にそれ必要?って感じだが、こうでもしないと続かないのかもしれない。
 
谷崎潤一郎芥川龍之介に「お前が長編を書けないのは肉体的力量(体力)がないから」といった感じの嫌味を言ったことがある。この発言の後、しばらくして芥川は睡眠薬で自殺した。
 
…で、漫画も結局は体力次第なのかもしれない…と思った。
原作つきシナリオつき漫画を3誌で10年以上も縦断連載できる技術と体力がそもそも才能ではないのか。
週刊連載並みの人間破壊装置の中で奮闘しながらしかも画力は向上している(テクノバスターの反動でのけ反るゲノセクトとか凄くいい)。
人気ゲームの漫画じゃなくてもこれだけのファンが有難がって買ったのか?なんてifを想像してもしょうがない。たかがジャリ向け漫画と腐らず、毎回投入される膨大な設定を消化し、相次ぐ掲載誌の休刊で混乱しても根気よく連載を続けたから画集発売というチャンスも訪れた。15年近く休まず続けたから訪れた。続けなければなかった。
 
 
 
 

ポケスペらしさって何?】

第5章あたりからゲームの設定を律儀に再現するようになったため、延々と消化試合再現PVを見せられているような気分だった。
 ポケスペってのはジムリーダーがロケット団になったり、サンダー・ファイヤー・フリーザーが合体したり、カメックスが大砲の水流で空を飛んだりする漫画だろ!!!!!!
…と懐古厨の自分は言いたくなる。しかし、章を追うごとにゲームの設定の根本的な改変や無視は減っていってるのが現実。主人公の設定などのいじり易いところはぶっ飛んでいることが多いが、他のキャラクターやポケモンの設定は大抵原作ゲームのままだ。
第1章は特に原作設定の無視が多いのだが(ニョロボンが石無しで進化したりニドクインが10万ボルトで倒れたり)、第2章になると漫画的演出に後付け設定をするようになる(クチバの進化の石やピヨピヨパンチで気圧されたゲンガーなど)。
原作再現を徹底する路線は第5章のサイコブーストの威力140を発言した時点で最高潮に達し、第6章に至ってはほとんどバトルフロンティア施設の紹介漫画になってしまう。
個人的にはもっと自由にやってくれていいのに、と思うのだが…。重度のポケモンオタクになった日下秀憲の原作リスペクトがそれを許さないのかもしれない。原作と違いすぎる点に株ポケやファンから批判があったのかもしれない。
…しかし、原作再現路線に向かったようでいて、51レベルのジュカインのような漫画にしかできないアイディアをすぐさま持ち込んできたのには、唸らされた。ゲームの設定をテコにしている。
 …で、その、第6章の主人公のエメラルドだけど、容姿にコンプレックスがあるところや「ポケモンよりポケモンバトルが好き」って発言は、今読むとポケモン廃人とオーバーラップして見える。あとリア充に小便をぶっかけるシーンは完全にキャラが弾んでいた。これ、果たして真斗は描いてくれただろうか。やっとポケスペが山本の漫画になった感じがした。エメラルド以降、決め台詞を絶叫する主人公が異様に多くなるけど、山本好みの演出なのだろうか?最初のクリスも「捕獲します!」だし…。
 

何かこう、読者を「ええ…」とドン引きさせておいて、後できちんとギミックに活かして「おお…!」と関心させる展開が増えたように思う。スロカスになったお嬢様がバトルルーレットで驚異の目押し能力を発揮したり。タウリナーΩとかいう山本の趣味丸出しロボットに最後の最後でロトムが憑依して戦ったり。出落ちキャラかと思ったウージとパカが主人公達の師匠になったり…で、そいつらを現世界から切り離されるビーム…という世界観をぶち壊しかねないアイテム(流石に何でもアリすぎる!)で退場させたと思ったら、ギラティナの話に繋げたり…。

しかしやっぱり何というか、上記の謎ビームしかり度々登場する便利アイテムには「ポケモン使えよ」という気持ちが拭いきれない。空飛ぶ車って…ポケモン使えよ。どんな攻撃も跳ね返す剣って…ポケモン使えよ。ラスボスが氷人形だったり、宝玉を吸収した人間だったり、甲冑のオッサンだったり……おい、ポケモンバトルしろよ。空飛ぶ車の時点でかなり辛かったが、謎ビームとガイルの剣に関してはもう流石に理性が抵抗を始めた。これって本当にポケモン漫画なのか…?

完全に悪口になってるけど、ポケスペ後半のオタク的な感じ(ベタなラブコメとか特撮パロとか…)や、意表をつきすぎてもはや詐欺になってる感じは、長期連載していく中で滲み出てきた、作品の本当の「」だと思う。自分が好きなものを描かずにはいられない感じというか…。俺だったらこうするね!感というか…。正直ポケモンとは全く無関係な要素なのだけど、この作品には必要なものだと思う。ないとかなり退屈な漫画になる。

オタク的というと、ダービー兄そっくりのギーマや、アヌビス神まんまのヒトツキなど、最近になってジョジョネタが復活している。しかもより露骨になっている。作る側が自己言及的になってるのかもしれない。ジョジョネタあってこそのポケスペだと…。

そういえば、第1章と2章では高レベルなバトルほどボールの開閉スイッチを積極的に破壊しにいっている。ゲームでは絶対できないが、漫画でやるとかなり映える展開だ。確実に勝つためには相手のポケモンを使わせなければいい。そしてトレーナーにダイレクトアタックすればいい。ポケモンがいる世界の戦闘を漫画にするというのは、実はこういうことかもしれない。ポケモンを使わない、使わせない…。ポケモン同士のバトルにこだわりすぎると漫画に必要なリアリティが獲得できない。

前半に多い、意表をついた行動やハッタリをパッチワークにしたようなシナリオは、ジョジョをはじめとした少年漫画の耽読で培ったものだろう。読者の盲点のつき方、予想の裏切り方の要求されるアベレージが上がりすぎたのか、または山本とタッグを組んで悪ノリに拍車がかかったのか分からないが、連載が進むにつれて石化などの「予想外なら何でもいいわけ?」って感じの展開が多くなる。セレビィショックなんて禁じ手スレスレのネタにも手を出してしまう。読者の盲点をつき尽くしてしまうと、ポケモン同士のバトルでは盛り上げようがなくなって、最終的に鎧のオッサンとのバトルになるのかもしれない…。

 

 

【第11章が面白い!!!!】

連載がストップしている第11章のBW2篇は上記の「味」と第2章第3章を思わせるオリジナルストーリーがイイ感じに組み合わさっていて、メチャクチャ面白い。

 一気読みで52巻に到達した時はやっと終わりか〜と安堵したが、あまりの面白さに眠気が覚めてしまった。

もともと要素が過剰気味なゲーム版BW2(ポケモンの融合ってどっかの漫画で見たぞ)に、刑事モノと学園モノを悪魔合体させているから、嫌でも話が盛り上がる!
ポケモン使えよ」なアイテムの代表格であるインターナショナルアームズも、主人公が平然と使うことで繰り返しのギャグとして機能している。ヒロインが元プラズマ団員という影のある設定も先が気になって仕方がない。フタチマルの擬人的な描き方もいい。パートナーポケモンがここまで個性的なのも久しぶりだ。
絵に難癖つけるとこから始めたこの記事だが、52巻のアクションシーンなどを読むと、画集が出るのもそうおかしい話じゃないんじゃないかと思えた。早く53巻が読みたい。
 
 
 
以上思いつくまま取り留めなく書いた。読むうちにアンチ的感情は氷解していった。世代が一回りすると寛容になるのかもしれない。Zガンダムはメチャクチャ叩いたけどF91に対しては「まぁ口があるのもいいんじゃない」と思えるようになった…みたいな?主人公が国際警察で学園モノ?ポケモンなのに?まぁ…いいんじゃない…?
 
あと、
 
デンジがゲームやアニメよりずっとクズで良かった。
 
変装の達人多すぎ。
 
他人のポケモン操れるやつ多すぎ。
 
エメラルド同様、初登場時かなり嫌いだったクリスママが再登場した時、なぜかとても嬉しくなった。
 
 
 
おわり